V 法王
古き良き伝統と歴史、そして宗教。法王の生きる世界は保守的で受け継がれたものを大切に取り扱います。
革新性よりも確立された手法を好み冒険を退けますが間違いは起こしません。教育を施し多くの弟子を育てます。
宗教的指導者でもあり、段階を経てステップアップするシステムの中で位が上がっていきます。
これも伝統としきたりに従っています。
『タロットカード７８枚意味と解釈』
法王（Hierophant）より抜粋
タロット・ヴィジュアライズ・アート『V 法王』
2023年 シナベニヤに石膏 テンペラ
22.7×１5.8cm
カードの意味
道徳、良心、良識、善意、古典的、保守的、教育者
古くから伝わる伝統や格式を大切に守りたい方、
道徳や良識を大切にしていきたい方、
人に教える仕事に就かれている教育者の方などにおすすめです。
構図は『死神』と同じに
こちらの『法王』のカードの構図は『死神』のカードと同じです。
法王は規律を守り末永く伝統としきたりを守る役割であるのに対し、死神は今の状況を刈り取る破壊と再生のカードであるため、対比的に取り扱いました。
伝統としきたり、文化を守りたい場合はやはりこの法王のカードがおすすめです。
弟子たちに様々な教義や知恵を授ける者という観点では教師、先生といった職業にも相通ずるものがあります。教師として若い世代に何かを伝えていくならこの法王のカードは心強い味方として日々さまざまな気づきやメッセージを無意識に託してくれるのではないでしょうか。
伝統を受け継ぐ者の知恵の深さ
俗世の人々のもとで、いや、神の民を傲然と支配している世界全体で、神の御姿と真理がゆがめられていないかどうか、よく見るがよい。彼らには科学があるが、科学の中にあるのは人間の五感に隷属するものだけなのだ。人間の存在の高尚な反面である精神の世界はまったくしりぞけられ、一種の勝利感や憎しみさえこめて追い払われているではないか。世界は自由を宣言し、最近は特にそれがいちじるしいが、彼らのその自由とやらの内にわれわれが見出すものは何か。ただ、隷属と自殺だけではないか！
『カラマーゾフの兄弟』ゾシマ長老の法話と説教から
長老の言葉には人々の精神性に対する深い敬意が感じられます。
なぜなら人は神の民であるという確信から、それらを蔑ろにし軽視している科学の手法の傲慢さを見てとっているからです。単に形式的な伝統を受け継いでいるわけではありません。人々の精神性を宗教指導者として大切にしてきたがゆえに、それをおろそかにしている世界を嘆いているのでしょう。
上記のゾシマ長老はさらにこのように続けています。
なぜなら俗世は言う。「君らはさまざまな欲求を持っているのだから、それを充たすがよい。なぜなら君らも、高貴な裕福な人たちと同等の権利を持っているからだ。欲求を充たすことを恐れるな、むしろそれを増大させるがよい」ーこれが俗世の現代の教えである。この中に彼らは自由を見出しているのだ。だが、欲求増大のこんな権利から、どんな結果が生ずるだろうか？ 富める者にあっては孤独と精神的自殺、貧しい者には妬みと殺人にほかならない。それというのも、権利は与えられたものの、欲求を充たす手段はまだ示されていないからだ。
『カラマーゾフの兄弟』は１８７９年～１８８０年にかけて発表されているらしいですが
この長老の言葉を読むと、んんんん？今現在のことを言ってるんですよね？っていうくらいぴったりですよね今の状況に。資本主義は加速を続け人々の欲望を原動力にしてますます増大し走り続けていますが、それに伴って我々の日常も常に消費活動を余儀なくされることが当然になっています。
・・・豊かさとは程遠く、もちろん精神など顧みることもなく、ただただ消費する馬車馬に成り下がっているかのようですね。
伝統を説く者は精神性を失わず
ゾシマ長老の教えはとても示唆に富んでいる、どころの話ではなく、１９世紀中ごろからの動乱が辿り着くであろう場所を既に指摘していたと言えるのではないでしょうか。長老のお話は小説本文ではまだまだたっぷり続きますのでご興味のある方はぜひお読みください。ちなみにこれは新潮文庫の原卓也訳です。上中下巻の中巻からの抜粋です。
さすが現代の預言書ともいわれるドストエフスキーの作品だけあって、
もう行く末はみえていたのかもしれません。ゾシマ長老は精神性の大切さを説き、そして神の民としての振る舞いを諭しています。これから先の未来に思いを馳せてみたければ、この長老の説法の部分だけでも一読されると何か見えてくるかも、しれません。
タロット・ヴィジュアライズ・アートの『法王』のカード、
これをどのように紐解くか、自分なりの法王イメージを培ってみるのも面白いのではないでしょうか。
法王でも長老でもありませんが、
法王のカードを基点にしながら
自分が何を大切にして後から生まれた者たちに何を語れるのか、
少しだけ見つめ直してみるのも良いかもしれません。